SaaSのカスタマーサクセス業務を徹底解説|注意点や体験談も紹介
はじめに
顧客の成し遂げたいことをサポートし、自社の利益につなげるカスタマーサクセス職。
従来の営業やカスタマーサポートとは異なり、利用者数を維持・増加させる役割を持っています。
サブスクリプション型(SaaS)のインターネットサービスを提供する企業にとっては、売り上げを伸ばすために必要不可欠な考え方であるとして、近年大きな注目を集めています。
この記事では、カスタマーサクセスの基本情報や、具体的な職務内容、カスタマーサクセス職として働く上での注意点などを解説しています。
実際にカスタマーサクセス職で働いた経験のある人4名からの体験談も紹介しているので、カスタマーサクセス職への転職を考えている方はぜひ参考にしてくださいね。
カスタマーサクセスとは
2000年代に登場した概念・役職であるカスタマーサクセス職。
顧客が自社のサービスを利用することで何をしたいのかを把握し、それを積極的にサポートすることで、自社に利益をもたらします。
具体的な業務内容には、 ・ユーザーの利用データを分析し、リコメンド機能の精度を上げる ・商品を届けたあとに、機能紹介の動画などを送付する ・ユーザーにヒアリングをし、サービス内容を改善する ・オンラインコミュニティを設置する などがあります。
つまり、顧客のサービスに対する愛着を高め、長期間にわたって利用しつづける状態を維持するための施策全般がカスタマーサクセスであるといえるでしょう。
SaaSとカスタマーサクセスの関係
カスタマーサクセスは、SaaSと呼ばれるインターネットサービスの発展とともに普及してきました。
ここでは、SaaSとは何か、そしてカスタマーサクセスとはどのような関係があるのかを具体的に解説します。
SaaSとは
SaaS(サース、Software as a Service)とは、サービスとしてのソフトウェアを意味する言葉です。
インターネット経由でアプリケーションやソフトウェアなどを提供するサービスをいいます。
各種SNSサービスや電子メール、ブログサービスなどのなじみ深いツールもSaaSに該当します。
SaaSとカスタマーサクセスの密接なかかわり
SaaSの有料サービスは、多くの場合サブスクリプションの契約方法が採用されています。
たとえば、動画や音楽の配信サービスや、月額制の有料アプリなどをイメージすると分かりやすいでしょう。
このようなサービスでは、売り上げや会員数を増やす際、顧客にサービスを購入・導入してもらうことと同様に、長く継続して利用してもらうことも重要です。
このため、顧客にサービスへの愛着を持ってもらい利用を継続してもらうための職種、つまりカスタマーサクセスが重視されるようになったのです。
カスタマーサクセスを取り入れているSaaSサービスの特徴 SaaSサービスを運営している企業にはどのような特徴があるのでしょうか。
ベンチャー企業が多い
ベンチャーやスタートアップ企業は、SaaSのサービスを提供していることが少なくありません。
SaaS型のサービスは、開発費が比較的低コストですみ、ニッチな分野にも進出しやすいなどの特徴があり、ベンチャー企業にとっては参入しやすい業態なのです。
このため、カスタマーサクセス職を募集している企業も、ベンチャー企業が多くなる傾向があります。
ベンチャー企業は、一人あたりの裁量が大きく、常に新しいことに挑戦できるなどの特徴があります。
市場が成長を続けている
SaaSサービスは現在非常に勢いのある業態で、今後も市場規模を拡大しつづけることが予想されています。
市場拡大の理由はいくつかありますが、もっとも大きなものは、 サービスを導入するまでの初期費用がおさえられること インターネットに接続できればどの端末からでもサービスを利用できること の2点が挙げられます。
BizteXの調査によると、2021年時点で、売上高1000億円以上の企業のうち52.8パーセントが、なんらかのSaaSサービスを導入しています。
2020年では36.3パーセントだったため、なんと増加率は145パーセントと、非常に大幅です。
これにともなって、SaaSサービスのカスタマーサポート職も今後より一層重視されるようになることが予想されます。
カスタマーサクセスと他の職種との違い
カスタマーサクセスは、しばしば営業やカスタマーサポートと混同されます。
ここでは、他の職種とカスタマーサポートとの違いについて解説します。
営業職との違い
営業職は多くの場合、新規顧客の開拓をねらうことが一般的です。
一方のカスタマーサクセスは、基本的には顧客がサービスを利用してから接点を持つようになる点が異なります。
カスタマーサポート職との違い
カスタマーサポートは主に、コールセンターや企業などで、顧客からの問い合わせに対応する職種です。
カスタマーサクセスとの違いは、顧客とコンタクトをとるタイミングです。
カスタマーサポートは、顧客が悩みを抱え、連絡をしてきた時点で初めて顧客とコンタクトをとります。
一方のカスタマーサクセスは、顧客が連絡をする前から積極的にコンタクトをとり、潜在的なニーズの洗い出しや分析に取りくみます。
コンサルティング職との違い
コンサルティングは一般的に、企業全体の経営課題を解決する方法を提案するものです。
一方のカスタマーサクセスは、企業の一サービスについて、顧客目線で運営上の課題を解決する取り組みのことをいいます。
カスタマーサクセスのほうが、業務範囲が狭いといえるでしょう。
カスタマーサクセス職の仕事内容
ここからは、カスタマーサポート職の具体的な業務内容を解説します。
カスタマーサクセス職の役割
カスタマーサクセス職は、基本的には
悩みを解決する手法を提案する
自社サービスを継続・新たに導入してもらう
という3点の取り組みがメインの役割として考えられています。
カスタマーサクセス職の具体的な業務
上で紹介した役割を果たすために、さまざまな施策に取り組みます。
具体的には、 顧客がサービスを導入する際のサポート サービスについての
顧客へのヒアリング
ニーズの分析
顧客の要望を社内に持ち帰る
などがあります。
簡単にいえば、顧客を手厚くサポートし「続けて利用したい」と思わせるサービスを作り上げることであれば全てがカスタマーサクセス職の業務といえるでしょう。
カスタマーサクセス職を取り入れている企業の事例
カスタマーサクセス職を導入している企業では、ソフトウェア企業のAdobe(アドビ)が有名です。
Adobeは2012年以降、ソフトをパッケージで販売する業務形態から、サブスクリプション型に転換しました。
これによりAdobe社の売上高は急成長しましたが、この際にAdobeはカスタマーサクセスの考えを重視し、大きな投資をしています。
Adobe社のカスタマーサクセスには、たとえば「プレミアサポート」(顧客がAdobe製品を使う際のきめ細かなサポートを提供するサービス)や、製品情報をまとめたポータルサイトの運営などがあります。
また、顧客である企業と1対1の関係を築きながら、業務をサポートすることもあります。
ときには、企業の事業目標をAdobeが提案することもあるそうです。
キャリアとしてのカスタマーサクセス職 顧客志向の業務が魅力のカスタマーサクセス職。
では、実際にカスタマー職として働きたい場合、どのようなスキルが求められるのでしょうか。
年収や勉強方法についても解説します。
カスタマーサクセス職に必要なスキルは?
カスタマーサクセス職では、
データの分析力
コミュニケーション力
業界への知識
などのスキルを持っている人が優遇される傾向があります。
また、マネジメントやマーケティング、経営など、カスタマーサクセスに関連する業務の知識がある場合はさらに重宝されるでしょう。
カスタマーサクセス職の年収
カスタマーサクセス職の求人は、およそ400万円〜900万円程度が一般的ですが、条件によっては1,000万円をこえるものも存在します。
企業によっては、未経験であっても500万円前後の年収で求人を出していることもあります。
さらに、マネジメントやサービス開発業務経験やオウンドメディアの運用経験など隣接分野での経験がある場合は、1,000万円クラスの求人にチャレンジすることも可能です。
カスタマーサクセス職の勉強方法
カスタマーサクセスの概念や考え方、業務の進め方については、多くの書籍が刊行されています。
また、顧客と接する際は傾聴や話し方のスキルが求められるため、講座やセミナー、書籍などで勉強をする人も少なくありません。
さらに、自社の業態やサービスについての深い理解も、顧客の満足度を高めるためには必要不可欠です。
カスタマーサクセス職に向いている人は?
業務内容が幅広く、接する人の多い職種であるカスタマーサクセス職。
具体的には、どのような人が向いているのでしょうか。
聞き上手な人
カスタマーサクセス職は、顧客と直接接しながら、サービスへの不満や改善点をヒアリングし、提案を重ねていく職種です。
このため、顧客が話しやすい雰囲気を作り上げ、会話の中から潜在的なニーズを掘り起こせる傾聴力のある人材が求められています。
また、継続利用をしてもらうことが目的のため、長期にわたって良好な関係を築けるコミュニケーション能力も必要となるでしょう。
ただし、顧客の話をたんに傾聴するだけではなく、自社サービスの利用方法などについては積極的に提案を重ねていく必要があることには注意しましょう。
傾聴をしつつ、大事な場面では言いたいことをはっきり言える「聞き上手・話し上手な人」は、カスタマーサクセス職に適した人材といえます。
言語化が得意な人
聞く力だけではなく、顧客の潜在的なニーズを言葉にできる人も求められています。
顧客の一部は、サービスを利用してどんなことを成し遂げたいのか、具体的には理解できていません。
このためカスタマーサクセス職においては、顧客のサービス利用方法や悩みなどを分析することで真のニーズを掘り起こし、提示できる人が重宝される傾向にあります。
データ分析ができる人
カスタマーサクセス職の業務においては、データなどを見ながらユーザーの利用状況を推測することもしばしばあります。
サービスが意図した通りに利用されているのか、より顧客のニーズにマッチする利用方法を考えられないか。
膨大なデータの中から欲しい情報を手に入れるためには、高い分析力が必要です。
また、ニーズの洗い出し以外のタイミングでも、データの分析は必要です。
たとえば、実際にサービスを改善する際にも、施策が本当に効果的かどうかは逐一データを確認する必要があるでしょう。
数字を見ながら施策を決定することに抵抗感のない人が求められています。
経営に関する知識がある人
経営に関する知識も求められます。
自社の売り上げを高め、ブランディングをするためには、経営に関する知識が欠かせません。
また、企業向けのサービスの場合は、カスタマーサクセスを通じて、相手企業の経営をサポートするケースもあるでしょう。
サービスだけでなく、経営についての全般的な知識も持っていることで、顧客に対して適切な提案ができます。
サービスについての知識と愛がある人
顧客がサービスを利用している最中、機能や使い方について安心して問い合わせができる状況を整えることも、カスタマーサクセスの役割の一つです。
普段から、自社のサービスをユーザーとしても利用し、サービスの強みや改善点を把握しておくことが望ましいでしょう。
また、自社サービスを売り込む際は、サービスへの愛が欠かせません。
「このサービスの魅力をもっと多くの人に知ってほしい」という強い思いを持った人がカスタマーサクセス職に向いていることは、いうまでもないでしょう。
カスタマーサクセス職に向いていない人は?
一方で、カスタマーサクセス職に向いていない人も残念ながら存在します。
具体的にはどのような人なのかを、順番に解説します。
接客業が苦手
基本的に、カスタマーサクセス職は人を相手にする仕事です。
顧客はもちろん、顧客から聞き取ったサービスの改善点を社内に伝えることもあるため、社内外を問わず幅広い人と関わり合いを持たなければなりません。
このため、 緊張しやすい 人見知りしやすい 初対面の人と打ち解けられない など、人と接する仕事に対して不安のある方は、カスタマーサクセス職も避けるほうが無難かもしれません。
安定志向
カスタマーサクセス職を重視しているSaaSサービスの運営企業は、ベンチャー企業も少なくありません。
大企業に比べて業態が安定しているとはいえず、業績が悪化すれば解雇されたり、給与が減ってしまったりする可能性もあります。
また、終身雇用や、勤続年数が長くなることによる昇給などは期待しづらいともいえるでしょう。
ベンチャー企業は、安定志向の強い方にとっては不安の大きい就職先であるといえるでしょう。
指示に従って仕事をしたい
顧客に対して、サービスの適切な利用方法を提案するカスタマーサクセス職。
業務の中では、顧客ごとの状況に合わせたクリエイティブな課題解決方法を提案する必要も出てきます。
また、同じような提案の内容であっても、顧客ごとにアプローチの方法を変えることもあるでしょう。
提案には、そのつど臨機応変かつ柔軟な対応が求められます。
このような対応を常に求められることは、上司の指示にしたがって働きたいと考える方にとっては、ストレスが多いかもしれません。
カスタマーサクセス職のキャリアパスは?
カスタマーサクセス職の経験をもとに、さらに新しい業種へとチャレンジする人も数多く存在します。
ここでは、代表的な三つのキャリアパスを紹介します。
マネジメント職
カスタマーサクセス職において、多くの人が目指すキャリアパスです。
チームのマネージャーなど、人員を管理する業務を手がけます。
場合によっては部下の教育などに対応することもあるでしょう。
日本ではまだまだ認知度の低いカスタマーサクセス職。
マネジメントの経験を積んでいる人の数は非常に少ないため、替えのきかない貴重な人材として重宝されることでしょう。
事業企画や開発
カスタマーサクセスを通して身につけた商品への知識を活かし、新規事業の企画や開発に携わりたいと考える人も少なくありません。
ただし、企画や開発については、カスタマーサクセスで求められるものとは全く別種のスキルが必要になることには注意が必要です。
フリーランスのコンサルタント
サービスの利用者数や売り上げ数を増加させることに何度も成功すれば、フリーのコンサルタントとして活動することも考えられるでしょう。
たとえば、企業のカスタマーサクセスを向上させるコンサルタントとして活躍することも考えられます。
また、企業全体の売り上げを増やすための施策を提案するコンサルタントとして独立することも考えられます。
カスタマーサクセス職に就く上での注意点
魅力も多いカスタマーサクセス職ですが、転職をする場合の注意点もきちんとおさえておきましょう。
ベンチャー企業が多い
カスタマーサクセス職はSaaSサービスを提供している企業が重視していることもあり、ベンチャー企業から求人が出ていることも少なくありません。
ベンチャー企業は、 担当する業務が多岐にわたる 研修などがないケースもある ビジネススピードが速い などの特徴があり、安定志向の人には向いていないことも考えられます。
転職の際には、企業文化と自分の性質が合いそうかをよく検討の上応募しましょう。
職種としての認知度が低い
2000年代に新たに登場した職業であるカスタマーサクセス。
このため、職種としての認知度が低く、周囲に業務内容を理解してもらえないことも考えられます。
また、経理や経営などの古くから存在する職種とは異なり、書籍や講座などの数が少ないため、勉強する手段が少ないことにも注意が必要です。
【体験談】カスタマーサクセス職についた方4名の感想
1.営業から転職し、働きやすくなった(Aさん・20代後半)
もともとは営業職への転職を考えていましたが、エージェントにカスタマーサクセス職を紹介されたことで、未経験でしたが転職を決めました。
実際に働き出してからは、想像よりもずっと営業で培ったスキルやノウハウをいかせるため、充実感があるそうです。
また、営業の頃に苦手としていた飛び込み営業などがなくなり、やりがいや働きやすさが強くなったとのことです。
Aさんは現在、サービスだけでなく、企業全体の経営にも興味を持ち始めました。
将来的に経営コンサルティングなどの業面に進めるよう、勉強を進めているそうです。
2.自分の提案で人の考えや行動を変えられるのが魅力的(Bさん・30代前半)
自分の提案で、人の考えや行動を変え、需要を生み出せるところに、強い魅力を感じているそうです。
カスタマーサクセス職を続ける中で、より顧客に伝わりやすい話し方を身につける必要があると感じたBさん。
書籍などで研究を重ねたほか、話し方のセミナーなどにも参加しています。
今後は、部署内での教育にも挑戦する予定で、マネジメント職としてのキャリアパスを考えているそうです。
3.粘り強さなどの適性がなく断念した(Cさん・20代前半)
もともとカスタマーサクセスに興味があったわけではなかったCさん。
急いで就職先を見つける必要があり、最初に内定が出た企業を選んだところ、カスタマーサクセス職に就くことになりました。
社内では独自のマニュアルが用意されており、ノウハウや知識を勉強する環境には恵まれていました。
ところが、実際に顧客からサービスのヒアリングをする段階になると、精神的な強さや粘り強さが求められることに気づきました。
また、顧客のニーズに合った提案をするため自社製品について学ばなければならないことも大変だったそうです。
現在は転職を考えているCさん。
もともと接客業に就いていたこともあり、カスタマーサクセス職とは相性が悪かったものの、人と接する仕事は今後も探していきたいと考えています。
4.プレッシャーはあっても人の役に立てるのがうれしい(Dさん・20代後半)
もともと人の役に立つことが好きで、顧客志向の仕事をしたいと思いカスタマーサクセス職を選んだそうです。
売り上げを伸ばさなければならないプレッシャーもある一方、顧客が喜ぶ提案を考えられるため、やりがいがあると語っています。
まとめ
SaaSなどの新しいサービス形態が登場したことにより、職種としての重要度が一気に高まったカスタマーサクセス。
従来の営業やカスタマーサポートとは異なり、顧客の潜在的なニーズを掘り起こし、サービス利用方法を新たに提案することが求められています。
聞く力や分析力、提案力の求められる、クリエイティブな職種といえるでしょう。
年収も1,000万円をこえるケースが多々ある一方で、日本ではまだまだキャリアサポート職の人材が少なく、経験者は非常に重宝される現状もあります。
これからの時代に合った、魅力的な職業の一つといえるでしょう。
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